魅力あふれる色調と模様  大林しげる

横島氏が分類した幾何模様の原形は細分すると、およそ三百種になっている。また現在、製作して販売している製品は約六〜七十種。今は毎年、こぎん刺しを内職にすることを条件として十人ぐらいの、センス豊かな家庭婦人を募集して、こぎん刺しを教えている。が、技術の習得は容易ではなく、時間がかかるうえに熟練度も要求される。そのため、以前は二〜三人が中途で落伍した。最近は二〜三年続けることができた根気ある人は辞めずに続けており、時とともに熟練度を増し経験を積む。かつて横島氏が「子どもが大きくなって手がかからなくなった家庭の、教養ある奥さんが刺し手ですから、複雑なデザイン通りに立派なものができるのです。また、現代がクールだからといって、こぎんに現代的なセンスだけのデザインをしたものは売れません。どちらかというと人々は、こぎんには”むかし”を要求するのではないでしょうか。もちろん、現代と昔をミックスしてのハイセンス作品を出すことは当然、これからの行き方でしょうけれども」と語ったことがある。こぎんと同種のものに南部地方に発生した「菱刺し」というのがあったが、いまはない。一人「こぎん」だけが現代に生きている。現代が菱刺しをどれほど強く求めても、菱刺しの南部地方にはそれを復興させる人材が出なかったから消え去ってしまったのであろう。また、横島氏には木村産業研究所というような応援者があった。まさに「歩けばそこが道になる」である。こぎんにとっては、横島氏を得たのが幸いであった。化学者たちは合成染料の研究開発に追われて天然染料の研究はできないありさまなのに、こぎんは横島氏という有機化学者を得た。いわば人知の及ばないところで「こぎん」は復活し蘇生した。現在、格調高い民芸品として誇らしく弘前の地で生産はつづけられ、全国各地で愛好者から歓迎を受けている。目の粗い重厚な手触り。手織の麻の布地は落ちついた感触で、津軽の風土を想わせる紺の香りを秘めている。太目の温かそうな白い木綿がくっきりと描き出す力強い幾何学模様は、なぜか冷たさを感じさせずに、紺地の上に正確に糸目を拾って描かれて無駄がない。清楚で乙女のように羞らいがあり、素朴でいかにも誠実、謙虚で慎ましく奢りがない。堅実だが堅くなく、朝の太陽のように健康的である これが私の心に映る津軽こぎんである。なぜ幾何学図形になったのか。果たして糸目 織目を拾うだけでそうなったのか津軽の風土が、造型に与えた影響は、あるとすればいったい何か。そしてそれはどのようにして幾何学模様に結晶したのか。容易には納得できる解明をえられそうもないまま、本稿の執筆模様に魅せられてやまないのである。