晩秋生掛け ばんしゅうなまがけ  

本場結城紬 晩秋生掛け ばんしゅうなまがけ

本場結城紬の命といっていい手つむぎ糸(以下 手紬糸)は、

重炭酸ソーダといういわば台所用のもので知られる重曹のことでどこでも

比較的手に入る物質を湯にとき、そして時間をかけて煮込まれる。

これを煮る繭と書いて 煮繭(しゃけん)

と呼ばれて、結城を中心とした地域で、繭をやわらかくして繊維がほぐれやすい

状態にする工程のことでその繭を職人がぬるま湯の中でやさしくひろげていく。

その工程をおえると袋真綿(ふくろまわた)とよばれる結城の原料ができあがる。

袋真綿は一枚の重さ2gという軽さ、繭は約7〜8個でひとつの袋真綿がつくられている

それを原料(袋真綿)に糸とりによって初めて手紬糸は生産られるのである。

こうして長い間歴史に語り継がれ、糸の生産(手紬糸)が忠実に守られてきた

のである。

そうしたなか、蚕(かいこ)が繭をつくり、やがて成虫になっていくという

一連の流れと養蚕の仕事と研究が進み、面白いことがあるときに発見された。

蚕は、桑の葉を好んで食べる家蚕(かさん)の多くは、

秋の終わりに近づくころ、その蚕自体のはく純白の糸が、

四季をとおして最も蚕のはく糸自体が細いのが秋の終わり(晩秋)であることが

わかったのである。

こうした家蚕の特徴といえる事実は、とくにキメの細かい結城のような織物

を生産する産地には有益な情報となった。晩秋になると、いっきに蚕が繭をつく

た時期を見計らい、生きたまま湯に放り込んで煮繭をおこなう。

これは、一般に、結城で最上級とされる晩秋生掛け(ばんしゅうなまがけ)

とよばれるもので細工物に使用される細い糸をとれる職人にあてられていく

金額的にも素材としても極上のものといえる袋真綿なのである。

蚕が繭を食い破る前に一度、状況的に乾燥させるという保存を優先させざるを得な

いのが一般的なことなのである。晩秋生掛けは違う。

織物の産地によっては春のものがよい、秋のものがよいという日本の絹織物は

そうした一見些細なことにみえる四季の流れにも影響は多いことでも知られる。

この文化に関しては日本特有のめりはりのある四季の流れを感じさせる、

意識させられるものである。

また同時に生き物によるありがたい蚕からの命の恩恵も感じる。

私はたとえ値段が高くとも常に結城はその晩秋生掛けのものが素晴らしいと

糸とりを重ねて思うのである。であるから結城のような繊細な織物はこうしたこと

にこだわりをもつべきであると考えている。

結城は糸にこだわりを持たなくなった瞬間に、それはまったく別の織物へと

変わってしまう繊細な織物なのが結城なのではいかと考えてやまない。

北村陵 2015七夕