1. 手つむぎ糸生産

    手つむぎ糸について:北村陵

    60歳で定年退職した男性のサラリーマンが糸とり指導をうけて、

    手つむぎ糸、袋真綿50枚(袋真綿一枚 約2g)で1ぼっちという

    取引単位で糸の賃金は高額とされているもので、細く平らな使いやすい

    手つむぎ糸は一万2千円くらいである。私も毎日のように糸とりして

    いるので、その糸が出来上がる速度というか時間はゆっくりなもので

    効率のいい仕事ではないことはわかるのであるが、その定年をむかえた

    男性サラリーマンは、指導をうけたあとに、馬鹿臭くてやっていられるか、

    と言ってやめてしまった、というような話があった。確かに糸づくりは

    時間と手間を考えると賃金は低いように感じてしまい、そうしたことが

    おこってしまうのであるが、糸とりにはじまるつむぎの手仕事というのは

    そうした諸々のことを含めても、つむぎで頑張るというのが、私の家業の

    宿命でありこれは昔から現在も賃金面や技術料はこのくらいである。

    糸を買い取る機元(織元)や糸商、産地問屋がそのあとに儲けている、

    という漠然としたうらみつらみを感じたものと思われるが、実際には

    糸に関しては、そんな甘い環境は用意されていない。私もそとで

    夜勤アルバイトをした経験があり、時給を約1000円前後で稼ぐ世界は

    つむぎ業にはない金銭というか収入だとは思った。そうした世界にちかい

    定年サラリーマンは、糸で大金を稼げるものだと思っていたのだろう。

    なんども言うが、そうした厳しい環境はつむぎ生産者は常につきつけられ、

    その結果、後継者不足が深刻となっているのであり、サラリーマンの

    大いなる筋違い、勘違いといえる。逆にいえば、がっぽりとお金を稼ぎたい

    というものは、つむぎ業につかないのであって、糸とりにはじまる生産は

    サラリーマンにつとまるような甘い環境はつむぎ業には存在しない。

    悪銭身につかずとは、まさにこのことであるといえる。修行が足らない

    60歳は、つむぎ業の厳しさを知ったことだろう。去る者追わず