草木染めの手間がかかる、という点で興味深いというか、誰しも草木染めをやっていれば頷けることを引用しよう。「古き」に学ぶとこと多くと題して吉岡幸雄さんはこう記している。

「私が家業の染屋の仕事についたのは四十歳をすぎてからである。子どものころから職住がひとところだったから、父親や弟子たちが立ち働いている様子や、その染色の手順なども目にしていたので、まったく別業種の人の転身にくらべると違和感は少なかったが、実際に毎日染場に入ってみると、肉体労働のつらさが身にしみた。ともかく植物染の仕事は、時間がかかる。その作業の一端を紹介してみよう。たとえば、刈安(かりやす)というススキに似た黄色の染料植物を使って、絹布を一反染めるとする。まずステンレスのボウル鍋に七分目ほど地下から汲みあげた良質の水を張り、切った刈安を投げ込んでガス台にのせて火にかける。強火で煮立たせたのち、中火に保つ。やがて湯に刈安の色素が溶け出して、黄色というより、淡い茶褐色の液になってくる。三十分ほどで、火から下ろして漉す。つぎ漉した刈安をふたたび水を張った寸胴鍋に入れてまた煮出す。一回目の抽出液は、四十度くらいの湯が張ってある大きな浴槽へ、はじめはほんの少し入れる。慣れない人は計量して入れるが、工房の練達の染師福田伝士さんなどになると目分量で入れている。その最初に入れる抽出液はほんのわずかであるため、色は薄く、大きな浴槽には染料が入っているのかわからないほどである。そこへ一反分の絹を入れる。絹はあらかじめ湯に浸して、染料が浸透しやすくしておいたものを使う。そして浴槽のなかで絹布を繰る。三十分間は浴槽の液のなかで絶えず手を動かしながら繰る。取り出してみると、ほんのりと色がついているかのようにみえるが、まだまだ白色に近い。それを大きなタライに張った水で洗う。いま染めたのに、もう洗うのかと思われるかもしれないが、これは繊維のなかに十分に浸透していない染料を洗い流すためである。次は「媒染」という工程へすすむ。ほとんどの植物染料は、染める材料の液と、媒染つまり布と染料を仲介して発色をよりいっそう促す液をつくり、交互に繰る作業をする。染液のなかで三十分、媒染液のなかで三十分、とくり返して絹布を繰る。この媒染液のなかで絹布はきれいな黄色になっていく。媒染液には、天然アルミニウムのミョウバンを溶かしたものか、椿(つばき)の灰でつくった灰汁を使う。媒染液で繰ったあとは、また水で洗う。染液で繰り、媒染液で繰るという作業を一工程とすると、一日およそ六、七工程をくり返すのである。ときどき先に抽出した刈安の染液を浴槽に足していく。色素が布に吸収されて減った分を補うわけで、媒染の液も同様の理由で足していく。こうした単調な工程を、辛抱強くやらなければならない。とにかく時間がかかる。私の工房へ見学にきたり、実際に染色の体験をしにきたりする人は、これを一日中やるのですか、と驚くが、それをしないと美しい色には染まらない。見学にきている人はたいがい飽きてくる。私の工房はさまざまな植物染色をおこなっているが、標準的な目安として、刈安の黄色のわずかに濃い色を染めるためには、上記の工程を最低でも二日、少し布が厚いと三日はくり返す必要があって、現場のつらさが身にしみるとはこのことである。 以下略

このように、植物染色は染色の時間が想像以上にかかり、たとえば中火にするなどの火加減なども注意しなければ、美しい色には染まらないわけで吉岡さんの刈安の染色の説明でそのきつさというか大変さが伝わったかと思います。2、3分で染まるというものではないということです。