北国の民芸織物   羊毛似た感触のぜんまい紬    山村精
ぜんまい紬の仕事は、まず「ぜんまい紬」を摘むことから始まります。このぜんまい綿というのは、くるりとまるまったぜんまいの頭についている綿で、雪どけと共に伸び出す新緑の芽を寒さや露などの厳しい自然から守るための、いわば産衣のようなものといえましょう。しかも自然防水加工が施された柔らかい毛質は、羊毛に似た暖かい感触を持っています。山野に出かけて、ぜんまい紬を摘むのですが、根元から折り、綿と茎を別にしてカゴに入れます。まだ風が冷たく、大変な労働ですが、しかし雪が深い土地だけに、緑を目にすることは喜びでもあるのです。摘んできたぜんまい紬は、ゴミを取り除き、釜に入れて蒸します。一方、茎は食用にするわけです。ところで、ぜんまい紬は赤褐色をしていますが、毛足が短いために、そのままでは糸になりません。そこで真綿を45%、ぜんまい紬を55%の割合で混ぜ、糸に紡いでいます。絹糸を経糸に、こうして糸紡ぎでつくったぜんまい糸を緯糸に織り上げるのです。一反の着尺に用いるぜんまい綿は約300gで、真綿は200から250g程度です。このぜんまい紬の歴史は2〜300年くらいのものですが、かつては真綿でなく、綿花が使われていました。綿花にぜんまい紬をまぜて紡いだ糸を緯糸にし、木綿糸を経糸にして織り上げていたわけです。おそらく昔は木綿は貴重なものでしたから、少しでも増やして使うために、ぜんまい紬を混ぜたのでしょう。もっとも、どこの地域でも作られていたわけではなく、ぜんまい紬の発達した地域は出羽三山の一帯と日本海側の豪雪地帯に限られていたようです。貧しい農民や漁民たちが寒さから逃れたいという、どうにもならない現実の苦しさを前にして考え出した、生きる知恵だった思います。最初は夜着といいますが、どてら風の綿入れだったのでしょう。その綿に、ぜんまい綿を用いたのです。そして、どてらに入れるぜんまい綿を紡いで布にするようになったのは、ずっと後のことではないでしょうか。むろん現在は、当世風に軽く、薄く織り上げられており、しかもかなり高度な図柄のものも作られています。織る技術は古い伝統をそのまま受け継いでいますが、織手の感覚が現代に生きる人間として、研ぎ澄まされたからです。つまり、感覚が過去のものとは異なる作品を生み出したのでしょう。とはいえ、ぜんまいの自然な褐色は同じだし、ぜんまい紬を織る心は先人から受け継いで、変わることがありません。そして、ぜんまい紬のやさしい温もりは昔のままです。