北国の民芸織物   艶と風情のある琴糸織       山村精
琴糸織というのは、古い琴糸をほぐして、緯糸に織り込んだものです。その弾力性と艶は、えもいわれぬ風情を感じさせます。この琴糸織の歴史ははっきりしませんが、相当古くからあったことは確かです。しかし、残念なことにその技法は途絶えており、多くの人びとの協力を得て復元させることができたものなのです。琴糸は北国街道が走る賤ケ岳の麓、余呉湖のほとりで作られます。もともと琴など、日本の弦楽器には最良の春繭から採った生糸が用いられています。余呉の琴糸はとくにすぐれ、繭の中の蛹が生きているうちに糸を引くのだ、ということです。現在、ナイロン製の琴糸が普及したせいか、糸を引く家は6軒しかありませんが、昔は数も多く、若狭から出稼ぎにきた娘たちで賑わっていた、と伝えられます。琴糸は何10本もの生糸を合わせ、念入りに撚りがかけられているので、針金のような強さを持っています。この琴糸を伸ばした両足の親指にかけ、手で撚りをほどき戻すのですが、これが大変な力仕事です。指を痛めますし、腰も痛くなってくる。糸を切らないように丹念に作業するのですから、その苦労がわかるでしょう。琴には1台に13本の糸が張られていますが、ふつう1本の帯を織り上げるには、約300本の琴糸が必要です。つまり15、6台分の琴糸で、やっと1本の帯ができるのです。この糸ほぐしが終わると、糸染めをし、高機で織り上げるのです。経糸に生糸を用い、緯糸に打ち込むのですが、糸のすきまをなくするために、筬には鉄板をはりつけ、重くしてあります。それだけに織り上がった布は綴織のように織目の密度が濃く、雅やかな味を持ちながら重厚な感じになるのです。琴糸織は帯地として用いられますが、時代のロマンと、物を大切にする人びとの愛情とが織りなして、長く生き続けることでしょう。